第62章 オタクと忍者 仙石忍
『発言には気を付けないと』
私は笑うのをやめた。
小学校の担任だったかもしれない。お父さんだったかもしれない。もう誰に言われたかも忘れたその言葉だけが、今も胸に染み付いている。
私、何か言った?
何がダメだったの?
ねぇ、どうしたらいいの?
考えても考えても言葉はでない。
前の学校で、何も話さない私は浮いていた。
相談したくてもできなかった。
この学院に来て、色んな人にであっても私は変わらない。言葉選びが下手で、よく人を傷つけた。
皆は、大丈夫とかゆっくり治そうとか言ってくれる。
募るのは申し訳なさと情けなさだ。
「…………忍くん」
私は、話すことが嫌いだ。
『発言には気を付けないと』
「あのね」
『発言には気を付けないと』
私は息を吸い込んだ。
「たくさん、お話ししよっか」
忍くんの元気な返事が生徒会室に響いた。私は笑った。
真緒くんが微笑ましそうに見守ってくれている、午後の日溜まり、生徒会室。
『発言には気を付けないと』
あぁ、誰に言われたか思い出したかも。
私が私に言ったんだ。
誰のせいでもない、私のせい。
『発言には気を付けないと』
じゃあ、もう一回自分に話しかけてあげよう。
『でもね』
『あなたの発言が』
今は、まだまだ難しい。だけどアニメの話ならできるかもしれない。
『誰かを笑顔にできるよ』
目の前の忍くんは、雲一つない笑みを浮かべていた。