第57章 最後に見た彼は 椚章臣
タァン!!
その音にその場にいる全員が戦慄した。
黒のパンプスを高らかにコンクリートに響かせた人物は、かけていたサングラスを外して白衣の胸ポケットにかけた。
「おはよう、愛しき生徒達!」
その笑顔に思わず全員がひるんだ。
特に、部長の日々樹は。
「今日、朝イチで!中庭で!稽古だなんて顧問の私は聞いていませんよ!?」
「amazing!流石です先せ「ご託はいりません!!」」
ガン!とパンプスが今にも折れそうな音をたてる。あの威力に耐えている細い芯には毎度のことながら感服する。
「真白に氷鷹、君達も揃いに揃って……あーぁ、先生ショックですよ!」
「違うんです!俺たち今回はおふざけとかじゃなくて本気で稽古してるんです!!」
「珍しく部長がまともなことを言ったんだ!頼む見逃してくれ!!」
「いや見逃せって……」
斉藤は目の前の光景に頭を抱えた。彼らは本気で稽古をしている。それは分かる。だが…
なぜ彼らは噴水に浸かっているんだ。いや、彼らが握っている台本が『噴水で遊ぶ天使達』というタイトルを堂々と掲げているからやりたい気持ちはわかるけど。
ていうか誰だそんな台本書いたの。あ、見えたわ著日々樹渉だわ。
「結局日々樹か!!」
「台本に罪はありません!!全て私の非だと認めましょう!!」
「そんなことは最初からわかってます!!さっさとそこから出なさい、でないと休部です!!あと講演も中止にしますよ!!」
「な、何て非道な!?あぁ、大人は子供に容赦ない!!」
演劇部の三人は大人しく噴水から出てきた。後で気づいたが普通に深海もいつものごとく噴水に浸かっていたがそれは見逃した。
職員室に行き、生徒指導の椚の元へ三人を差し出した。なぜ噴水に彼女が行ったかというと、椚に指示されたからだ。
普段の彼女ならこれくらいのことは誤魔化したりして許すのだが、椚相手となると別だ。三人も慣れたもので「あ、先生がカリカリしてたのこういうことか」と納得していた。
「お疲れ様です、斉藤先生。いつも言っていますがスカートはもっと長いものを着用してくださいね。」
「ふふふ、足を出せるなんて若い今のうちだけですから。じゃあ三人をお願いしますね。」
斉藤は三人を犠牲にその場から逃げた。背中に伝わる三人の視線が痛かったので後で何か奢ろうと思った。