第55章 碧の空を見上げてみたり 乱凪沙
彼のいう神なる父は、私の父でもある。
と、いうのは誰も知らない私の秘密。
「…………おめでとう」
沸き立つ観衆の声に勝つはずもなく、私の声は消えた。アンコールを披露する四人はいつも以上に輝いていた。
遠く離れたところで歌う四人を見て、思わず頬が緩んだ。
先程までのトラブルにより、私の過去も明らかになるかと冷や冷やしたが触れられたのは私以外のことだけ。
仲間が落ち込んでいるなか不謹慎にもホッとしてしまったのは情けないが事実だ。
(…………潰したと思ったのになぁ)
誰に聞かせるでもなく心でそう呟いた。と言ってもこの大歓声。聞こえるはずもない。
「ああーーー!!負けちゃったよあんずちゃん!!」
なのでこんな大声で叫ばれたところで関係ない。
「すみません、皆が勝ちました」
「うッ、負けた人間に対するその態度がホントあんずちゃんらしい!」
巴さんはハンカチを噛むようなジェスチャーで悔しがっていた。その後ろで七種くんが凪沙さんの髪をものすごい勢いで編み込んでいた。
やはり彼は毛繕い程度にしか思ってないらしく、愉快な髪型になっているのなんてそっちのけで気持ち良さそうにしていた。
「すみませんねぇ、おひいさんが」
漣くんが律儀にお詫びをして来た。が、大して申し訳なさそうではない。勝った相手への嫌味といった態度だ。しかしそうといっても刺々しくないし、不快ではない。
「ていうかあんずさんは『皆が勝った』って言うんすね。あの四人はあんずさんを含めて『皆で勝った』って言ってましたよ?」
「…そっか」
相変わらず嬉しいことを言ってくれる。
(それでも勝ったのはあなた達だよ。本当におめでとう。)
私はもうステージを見ない。
何もない虚空をただ見つめていた。
先程の放送など、あのトラブルがフラッシュバックする。
(…私だけが負けたんだ)
そう思うと、虚無感に襲われた。鷹を恐れて遠い空まで飛んでいったよだかのように、私も消えてしまいたい。
あぁ、それでもよだかはまだ星になって輝いてるんだっけ?
あの物語は誰が書いたんだっけな。有名な昔の人だった気がするけど。
………遠い日に呼んだ物語など、どうでもいいのだけれど。