第54章 自己犠牲は美しい、そして 葵兄弟
「何でこんな思いしなきゃいけないんだ」
コンクリートの上に立ったヒロが呟きながら空を仰ぐ。
その頬に雨粒が落ちた。雨はポツリポツリと降り始め、最後には大降りになった。
彼は下を向かなかった。
決して向かなかった。
私はその光景が
目に焼き付いて離れない。
革命は終わった。
学院の歴史における決定的瞬間を見届けた私達は、プロデューサーとして成長していった。
桜が葉桜になる頃、先輩との別れが悲しい頃、私とヒロは全く話さなくなっていた。
お互い無口だし、話す話題もないし、家でも部屋にこもっているから会うこともない。
それが、あからさますぎたのだろうか。
「あんずさんとヒロさんって喧嘩でもしたんですか?」
レッスンの休憩時間に、ゆうたくんが聞いてきた。
私は黙って首を横にふる。
一応、仲は良いと思う。喧嘩したこともないし……ただ、話さないだけだ。
「ていうか、俺最近あの人見てないよー?」
「あぁ…ちょっと不登校になってるかな。」
「え!?大丈夫なんですか?」
二人が詰め寄ってくる。
……………そんなに来られちゃ答えに困るなあ。
「ヒロは………ちょっと、心が弱いだけだよ。」
それだけ絞り出した。ヒロが学校に来なくなるなんて珍しいことじゃない。
何かに悩んで、勝手に塞ぎこんで、勝手に立ち直る。時間が全てを解決し、全部何とかしてくれる。
ヒロは自己主張をしない。だから黙っているのだ。
「でもさ…一緒にいないって、寂しくない?」
ひなたくんがゆうたくんをチラリと見てそう言った。私はちょっと真を開けてから話した。
「ヒロは双子の弟ってだけ。君達みたいに、元々一つだったわけじゃない。たまたま私達は双子になったけど………。大好きでもない。」
簡潔にそう言うと、理解できないのか首を捻られた。
私とヒロって何なんだろう?
よく分からないけど、わかる必要なんてないんじゃないかな。
だからひなたくんがそんなに悩むこともないと思うんだけど。