第53章 待ってるのに!! 逆先夏目
「夏目くんなら下にいますよー」
手をヒラヒラと振られいよいよ突入。
………………………だが
地下室の階段を降りているとそこから声が聞こえてきた。二つの声だ。
夏目くんと…………………
「…………………渉?」
階段の途中でしゃがみこみ、階下を見下ろす。そこでは夏目くんと渉が激しい口論を繰り広げていた。
「落ち着きなさい夏目くん!!」
「うるさイッ!!渉にいさんばっかリ、ボクなんテ…!!」
「大丈夫です、ですから落ち着きなさい!!」
いったい何を喧嘩してるんだ?
「だっテ、彼女は全然ボクのこと…!」
「そんなことないです、あの子はあの子なりに考えてます!!」
……………彼女っていったらアイドル科と関わりのある女子なんて私だけだから私のことだよね…?
「だからといって焦って怖がらせては本末転倒ですよ!」
「ボクのことが好きなら頷いてくれるはずだヨ!でもずっと拒絶されテ……。もう不安でしょうがなイ、おかしくなりそうダ!!」
その会話を聞いて、私は体中の力が抜けていくのを感じた。
(………………………嘘)
夏目くんが、自分の思っていることをはっきり言わない天邪鬼な性格は知っていた。
そして、前々から渉に言われていた。
『あなたはあの子に思ったことをはっきり言ってあげて下さいね。』
私は、天邪鬼の彼に天邪鬼で接した。
今回のすれ違いはそれだ。
はっきり言ってあげないと分からない。でもはっきり言えない。
(……………でも……………どうすれば)
今この状況で二人のもとへ飛び出せたら良かったのに。
私が膝を抱えてネガティブになっていると……
「ワン!!」
「…………………………ぇ」
「ハッ、ハッ、ハッ」
荒い息で愛らしい瞳で
大吉くんはそこにいた。
私のすぐそばに足が見えた。上に視線をあげると、青葉さんがにっこり笑っていた。
「…………………あ、あのー…」
彼はガッツポーズを見せた。それと同時にクラウチングスタートのセットに入る。
「幸せはこのブルーバードが運んであげます!」
ブルーバードっていうかダークバードじゃね!?そんな突っ込みと共に私は走り出した。犬がいる。それだけで私は駄目だった。
気づけば勢いよく階下に走り出していた。