第52章
「あなたは幼なじみでしかなかった。」
斑さんの声がやたらと講堂に響く。
「だから拒絶した。」
斑さんはハッキリと言う。
「でも、好きになった。あなたを拒んだのに、今度は俺があなたを求めた。身勝手なことに、俺は…………あなたを愛した。あなたが大切だから、俺は俺に正直なことしか言わなかった。」
彼の言葉を受け入れた上で、私は何も言わなかった。何も言わずに、ゆっくりと斑さんに歩み寄った。
「……………………………」
戸惑う彼に、笑いかけた。
「………今なら」
でも、怖くて怖くて。
悲しかったから。
ちょっと下を向いていたかもしれない。ちょっと目に涙がたまっていたかもしれない。
「………………………私、告白して良いですか?」
あまりにもショックで、忘れたくて忘れたくて。本当に忘れた。
斑さんは私のことを愛してくれている。それは伝わる、痛いほど。
だから私は忘れたままでいられた。それなのに、思い出してしまったのは。
心の中で青春を馬鹿みたいに引きずっていたのだ。私を愛してくれている目の前の斑さんを無視して、私を拒絶した過去の斑さんだけを見ていた。
だからこそ、私は言う。
あの日と一言一句違わず。
「好きです、幼なじみではなくて一人の人間として………………大好きです」
何年か越しの告白は、届いただろうか。
拒絶され、落ち込んで、講堂に逃げ込んで、放課後までずっとそこにいて、私がいなくなったからと皆が騒いで。
それでも見つけてくれた、大切な大切な………大好きなあなたに。
どこまでも届いてほしい、この素直な気持ち。
もう二度と、忘れはしない。