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短編集…あんさんぶるスターズ!【あんスタ】

第50章 征服欲 鬼龍紅郎


「おい、もうやめとけ」


狭い路地裏にバリトンが響く。コンクリートの黒ずんだ壁に、鮮血が斑模様を描いていた。

アタシは血を流して今にも気絶しそうな斑模様の製作者から手を離した。


「何だ……もう終わったのか」


辺りを見渡せば、五人ほどの男が倒れていた。きっと全員年上だろう。


「男相手によくやるぜ。」

「うっせ。ガキが生意気言うな。」


ゴシッと頬をぬぐう。手を見れば、血がついていた。相手の拳がかすったのだ。


「………ほら帰るぞ」

「……………………」


返事をしなくても、紅郎はアタシの手を引いてくれる。分かっていたから何も言わなかった。


(今日も………特に何もなかったな)


温い夜の風に制服のスカートが揺れた。

アタシの手を握る紅郎の手はゴツゴツしていて、男の子だなあと思ってしまう。

紅郎は中2、アタシは中3。学校は違えど、腐れ縁のようなもので…まあ夜にはだいたい顔を会わせる。


「…紅郎」

「あ?」

「お腹すいた」

「家で食ってけ。どうせお前ん家誰もいないんだろ?」


昔からアタシの両親は奔放主義だった。
なので、家族全員揃うなんてことはあり得ない。

ま、だから好きなだけケンカできるんだけど。


「ありがと。昨日ガス止められちゃってさー。中学生だとバイトもできないし大変だわ。」


奔放主義なのはいいけどせめて家にお金は入れて欲しい。


「お前、カツアゲとか…」

「してないよ、紅郎がダメっていったから。」


アタシは制服のポケットをひっくり返した。悲しいくらい何も出てこない。


「今夜はカレーでいいか。」

「わーい、人参と玉ねぎ入れないでね。」

「細かく切ってやるから食え、アホ。」

「はーい…。」


紅郎の細かいは細かいじゃない。

その日のカレーは野菜がゴロゴロ入っていた。


人参も玉ねぎも、大きかった。
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