第47章 何事にも屈しないけれど時には泣いてしまいそうになる 衣更真緒
衣更はサッとしゃがんで背中をさすってくれた。
「ごめッ……、まーく、…ッケホ、ケホ、ケホ」
「良い、喋るな。大丈夫だから。」
いつだって彼は笑顔だった。私が何を言っても笑ってくれる。それが何よりも申し訳なかった。
「姫宮も悪気があったわけじゃないから、な?弓弦が謝られてしまいましたって困ってたぜ。だからごめんなんて言うな!」
カタカタと手が震える。先程までの特訓を思いだし、呼吸を整えていく。
(大丈夫、大丈夫)
大丈夫だから
『調子に乗んなよ!!』
もう、出てこないで_____
「………落ち着いたか?」
「うん、ありがとう。」
衣更はずっと側にいてくれた。ようやく落ち着いてきた私を見て、良かったとまた笑った。
「ごめんね、仕事中だったんでしょ?」
「いやまあ、姫宮に事情も聞かされず引っ張られた時は焦ったけど……気にすんなよな。副会長と一緒に見回りしてただけだからよ。そもそも会長は具合が悪くて休みだしってことで、お前が駆り出されただけだし。」
「ッそっか!じゃあ今からでも手伝うよ!!」
「え!?良いって、お前もう帰れよ!!頼むから無理だけは勘弁!な!?」
衣更はここでやっと真顔になった。心配してくれてるのはわかる、でも………。
「お願い」
「駄目だって…!」
「ねぇ、衣更………考えたことある?
私達、永遠に一緒じゃないんだよ。」
ハッ、として彼は私の肩をつかんだ。そしてどこか思い詰めたような顔をして、項垂れた。
「頑張りたい。りっちゃんもまーくんも優しいから……大好きだから、いつまでも頼ってしまうのは嫌なんだ。」
「…………あんず」
衣更はソッと手をはなし、私の顔をジッと見つめた。
「………時々、お前って残酷だよな…」
自嘲気味に笑い、彼はため息をついた。
「え?残酷?……ご、ごめん。ひどいこと言っちゃったかな…?」
「あ、何でもないんだ!さあ仕事手伝ってくれるなら頑張らないとな!!急げ急げ!副会長の胃に穴が開くぜ!」
無理にそう叫んだように聞こえた。残酷?何が?私、君に何をしたの?
ねえ、何で教えてくれないの?
それこそ残酷じゃない?