第46章 クソ野郎が結婚したようです 七種茨
「………………あなた、だったんですね」
どうやら辿り着いたらしい。彼女は、ワタシに辿り着いたらしい。
「………『ゆうか』さん」
「…………………凪沙は、ワタシの弟」
もはや逃げ道はない。
ワタシだって人間だ。できないことはある。
思えば、君に教えられたんだっけね。
君は人間でないワタシを人間にしてくれた。
「……血の繋がりのない、ね」
「……………ッ」
どうやらそこまでは知らなかったようだ。
そう、ワタシと凪沙は兄弟___
幼い頃、一緒にとった写真がまだ残ってるなんて思いもしなかった。
でも確かに、ワタシ達は写真をとって裏にクレヨンで名前を書いた。
「凪沙は、気にくわなかったんだと思う。養子として家に入ってきたワタシが。凪沙の………父の表向きの子供は血の繋がりのないワタシで、本当の子供の凪沙は隠し子として育てられたんだから。」
あんずさんは笑いもしないし泣きもしない、無感情。いきなり個人レッスンしますとか言って呼び出すから、何事かと思ったけど。
「………………ゆうか…優歌。それがワタシの名前。優しく、歌う………優歌。……静かな凪の海に、優しく歌う…………それがワタシ。」
「……………………先輩」
「父が死んで、凪沙もいなくなった。ワタシはもう、静かな凪の海に優しく歌うこともない。
由蘭がいい。自由に、花みたいに………そこにいればいい。」
防音の部屋は静かになった。ワタシは部屋から出ていこうと、さっさと扉へ向けて歩く。
「う、ッ……………ッ!!!」
突如、呻き声が聞こえて振り替える。
あんずさんが、踞っていた。
「……ちょ、何!?」
「……だ、大丈夫、……!」
「む、無茶しないで!救急車…!!」
「大丈夫です!!!」
強がりなのはみえみえ。
このままではまずい!
「あ……じゃあ、人を呼んでくるよ。だ、誰が良いかな……。茨、いるんじゃない。だってこの後凪沙のレッスンでしょう?」
そうして外に出ようとすれば
「ダメ!!茨になんか言ったら永遠に許さない!!!」
彼女は大きな声を出して怒鳴った。