第45章 チョコレートなんてあげない 漣ジュン
ジュンは幼なじみにして、私の彼氏である。
とまあ断言できたら良いのだが私は誰にもこのことを言っていない。
幼なじみなんだ、とも彼氏なんだ、とも。
ジュンとは中学が離れていたのでその三年間は口も聞かなかったし年賀状などのやりとりもしていなかった。
ましてやアイドルなんか目指していたので二度と会うことがないと思っていたのに、私が夢ノ咲に転校したことにより再会を果たしてしまった。
それは、あってはならないことだった。
私の目の前に現れてほしくなかった。
どうして私に告白なんてしたのだろう。どうして私はそれに頷いたのだろう。
あのとき言えば全ては丸く済んだ。「嫌い」の一言でも言えば良かった。
本当は嫌いでも何でもないけれど、私は言わなければならなかった。
漣ジュンを私の心から消すために。
ジュン、私はとても後悔している。
ごめん、ごめんごめん。知らなかった、知らなかったんだ。
知らなかっただけなんだ。
無知が罪と言うならば、私は間違いなく断頭台に立ちギロチンの前に消えるだろう。
だからね、ジュン。
私は
君にチョコレートなんかあげない。
『チョコレート誰にあげんの?』
ハイエナ、と游木くんが揶揄したのはあながち間違いではない。
その通りだと思うから。
電話越しでも食い殺されそう。臆病な心臓が破裂しかけている。
「そう、だね…………」
今はバレンタイン間近。アイドルはこの時期忙しいだろうに……こんな真夜中に電話をかけてくるなんて、よほどの用だと思ったのに、ジュンの言葉は「昨日の晩御飯なんだった?」と何ら代わりのないものだった。
「とりあえずクラスの皆かな。」
『手作り?』
「うん。」
『……大変っすねぇ。』
ジュンは何かを期待しているようだった。私はそれを分かっていながら何も言わない。
しばらく沈黙が続いた後、彼は爆弾を落としてきた。
『俺には?』
しかしその爆弾は、悪意も何一つないものだから私はまた何も言えなくなった。