第38章 俺の奥さんちびっ子さん
しまった
鉄虎の頭にあるのはそれだけだった。
今日はクリスマス。仕事終わりに2人で晩ご飯でも、と計画したのは良かった。
鉄虎は変装したのにも関わらず、あっという間にアイドルだとばれ満更でもなかったのでファンサービスをしていると当然ながら待ち合わせ時間に間に合わなくなった、ということだ。
変装用の防止が脱げないように抑えながら、慌てて待ち合わせ場所へと向かう。
(姉御ッ!)
人混みの中に、店の前で背伸びをして鉄虎を探しているあんずが見えた。
「わぷっ」
さすがクリスマス。人混みにもみくちゃにされ、あんずから少し遠ざかってしまった。
(う~みゅ、中々動けないっすね………)
しばらく時間をとられ、ようやくあんずの元へ辿りつくと
「…………あれ?」
「よう、鉄」
「メリークリスマス♪」
鬼龍紅郎と、仁兎なずな……そしてその2人にぺこぺこ頭を下げている今にも泣きそうなあんずがいた。
「ちょ、姉御どうしたんすか!?」
「……………いつものヤツです」
「……またっすか………」
言いにくそうなあんずが、ポツポツと話しだした。
(鉄虎くん、遅いな。きっとまたファンの子に捕まってるんだろうなあ。)
こう言うことはよくあるので、慣れっこだ。しかしクリスマスということでソワソワする。
背伸びをして必死に探す。背が低いと不利だ。
「ねえ君~」
ガシッと手を掴まれ、思わずこけそうになる。
「さっきから背伸びしてキョロキョロしてるね、待ち合わせ?」
「友達待ち?来るまで俺らと遊ばない?」
遊ばない?と聞いてくる割に強制連行だ。
やばいことになった。
どうしようかと心の中でワタワタしていると、グイッと頭を鷲づかみにされた。
「よう」
聞き覚えのあるバリトンに、ハッとする。
「待ったか」
「……きりゅ…、さ……」
忘れもしない、高校時代の先輩。
鬼龍の強面に恐れおののいたのか、ナンパしてきた男達はもういなかった。
「ナンパされる癖は相変わらずらな~」
どうやら2人でお出かけだったらしい、仁兎もいた。
2人の姿を見てホッとして、少し目が潤んだ。