第32章 大変なことになりました 伏見弓弦
「うわぁぁっ!綺麗だねっ!!」
思わず叫んだ。清水寺から見える紅葉は圧巻で、神崎くんもはしゃいでいる。
「落ちるばい」
九州のなまりで身を乗り出す私の襟首をつかんで手前に引く真冬さん。
「気をつけんね」
ありがとうと言うと一言そう言われた。
「そういえば、主(ぬし)の彼氏さんさっきから元気がないけんど……よかとね?」
「え、弓弦くんが?」
「ほれ、あそこ」
真冬さんに指をさされ、慌てて駆け寄った。
この時、気付くべきだった。
真冬さんがにやついていたことに。
「弓弦くん、やっぱり桃李くんが心配?」
「ええ………離れたことなどなかったものですから」
彼はシュンとして答えた。
弓弦くんとは、私が告白してOKをもらった感じで付き合っている。
真摯でとっても優しいし、自慢の彼氏。
「他の執事さんにお願いしたんでしょう?それに折角の京都だし、精一杯楽しもうよ!」
取って付けたような励まし方だったが、彼は少し元気が出たようだった。
「ありがとうございます」
「うん!じゃあ行っちゃおう!京都だ京都~!」
「待てあんず」
お前はこっちだ、と氷鷹くんに襟首を掴まれた。
「なぬ、弓弦くんとの京都巡りは」
「ない」
「儂らで我慢せんね~」
「えー……真冬さん……」
「なんねその反応文句あっと?」
大ありだ、と言いたかったが年上にそれは言えない。タメ口で接せられる凛月くんとは違い、真冬さんはそこらへんが厳しい。
「それではまたお会いしましょう」
「またね~弓弦くん」
まぁしょうがないものはしょうがない。
取りあえず八ツ橋買いに行こう!