第24章 無自覚は苦しい 乙狩アドニス
「俺は、大神から全てを聞いた。だから中学時代のお前も理解したつもりでいた。
しかし………いざケガをしたお前を見ると、がっかりこそしないが苦しくなる。
俺は力が強いだけだ。お前にかける慰めの言葉も浮かんでこない。」
アドニスくんが、ため込んでいたことを全て吐き出す。そんなことは、初めてだった。
「俺は中学時代のお前を知らない。話を聞くことは出来るが、それ以上は出来ない。唯一それを知っている大神が………うらやましい。大神なら何かお前に言えただろうに。」
「………違うよ、アドニスくん。」
私は暗いロッカーの中で彼を見上げた。情けなく……力なく、笑ってみせた。
「アドニスくんがそんなに中学時代に執着したら、更生した意味ないじゃない。大神は、中学時代の私を見てくれた……
アドニスくんは、今の私を見てよ。」
あの苦しい中学時代には大神がいてくれて……今はアドニスくんがいる。
それが、この上ないくらい幸せ。
「……それに、慰めの言葉とかなくても…アドニスくんの気持ちは伝わってくるよ。心配してくれてありがとう。」
私がそう告げると、彼はソッと抱きついてきた。
「……思えば、俺はお前と無意識に距離を置いていたな。だから、こんな話も出来なかった。今日は、話せて良かった。」
「そうだね………でもちょっと苦しいかな、うん。」
アドニスくんはハッとして力を緩めた。
「………す、すまない、本当に…」
「そこまで責任感じなくても良いのに……」
まぁ、アドニスくんらしい。そんな感じにほんわかしていると……
ガン!!とロッカーの扉が蹴られた。
「あんず、アドニス!!ここにいんだろさっさと出て来い!!」
蹴った本人らしい大神の、怒鳴り散らす声が聞こえてきた。
「すまない、大神。狭すぎて体が動かせない。開けてくれ。」
「ったくしょーがねーなーっ!!」
乱暴に開けられた扉から、外の光が差し込む。ロッカーの中は真っ暗だったから、目が慣れない。