第22章 君が大好きな俺へ 氷鷹北斗
俺は走った。屋上まで、全力へ。バラに書かれた部長の思いを、あんずに届けるために。
そして何よりも、彼女に会いたかった。もう一度笑顔が見たい。
「あんず!!」
彼女は今にも落ちてしまいそうなくらい、身を乗り出していた。俺の声にビックリして、振り返る。
「…氷鷹くん」
俺は叫んだ。後半は声がかすれていたが……部長の思い、死なないでほしいという俺の思い………全てを彼女にぶつけた。
頼む、届いてくれ……
「………ごめんね」
しかし、彼女からは謝罪の言葉。俺は全てを悟り、彼女を止めようとした。
「…ありがとう」
最後、彼女は笑った。俺が見たかったとびきりの笑顔だった。
彼女は屋上の手すりの向こう側へと消えていく。
「_____バイバイ」
それが、最後だった。
屋上に、静寂。そして下の方から何かがコンクリートに当たって、ひしゃげる音が聞こえた。
見たくない…見れるはずがなかった。
だが…………俺には、悲しみの一つもなかった。
「あんず」
もうこの世にいないだろう、彼女の名前。
「これがお前の思いなのか………?」
当然のごとく、誰も答えない。しかし……かわりに歌声が聞こえてきた
「私屋上で靴を脱ぎかけたときに…」
部長の声だった。
「三つ編みの先客に」
歌いながら、屋上へと入ってくる。彼は、どこか晴れた表情を浮かべていた。
「…彼女が私に教えてくれた歌です。悲しいですね、世界からまた一つ愛が消えてしまいました。」
「………部長」
「何ですか?」
部長は歌い続けている。歌詞を聞くに、確かに悲しい歌だ。
「俺は、悲しくないんだ……なぜだ?」
「………それはきっと」
部長は歌うのを止めた。俺は彼の言葉を待った。
「北斗くんが悲しみから逃げてるんですよ。」
部長の一言で、ハッとした。
しかし……面と向き合いたくはないものだ。
「………逃げても、良いんだろうか」
「そうしなさい。逃げなかったから、彼女はこの終焉を迎えたのです。」
部長は去っていく。
俺は屋上から下で誰かがあんずの無残な姿を発見したわめき声を聞きながら、部長が歌っていた歌を口ずさんだ。