第11章 今日こそは私とデートしてください ー羽風薫ー
「エイヤッ!!」
私はアドニスくんに教えてもらった最短ルートを通って学院内を駆け巡る。
運動はバリバリ出来る方だから、彼の無茶苦茶な移動手段でさえ私には楽ちんである。
「…今日こそは阻止してやる」
私はあの人がいるという軽音部の部室に窓から入った。
「ちーーすっ!!あんず参上つかまつったのだ!!」
「どっから来てんだてめぇぇぇ!!!」
「やだ大神くん………窓だよ、わかんないの…?」
「そういう意味で聞いたんじゃねーんだよっ!!」
ギターをかき鳴らしていた大神くんがやいのやいの突っかかってくる。私は肩で息を切らして部屋を見渡す。
「…………やっぱ、いないかぁ…」
「あー…羽風先輩なら、ついさっきな…」
ドンマイ、と大神くんが私の肩を叩く。
薫さんが、女好きなのは知ってた。デートするのは構わない。別に許す、許すよ…?でも何で私とは1回もしてくれないの!?
と、いうわけで私はいつもあ、偶然会いましたねー。ところで、どこか行きませんか?を狙って放課後の校舎を走り回っている。
「まぁいいか…帰ろっ!!走って帰ろっかな、それいっちに、さんしっ!」
「やめろ!こんなところでストレッチすんなっ!!」
大神くんがそう言うもんだから私は窓枠にヒョイと飛び乗った。
「あーぁ、怒られちゃった。邪魔してごめんね、大神くん」
「…おい!」
私は窓から外へ出る。さて、暇だなぁ。帰って何しようか。
そう考えていると窓から窓へとチョコチョコ校舎の壁をつたっている私の下からおっとりとした声が聞こえてきた。
「あんずさ~ん!」
「あ、深海せんぱ……うおっとぉ!!」
グラリ、とバランスを崩して落ちる。死ぬ気で近くの木の枝につかまってぶら下がり、何とかセーフ!
「こんにちは、深海先輩!あんず、今日も命がけですっ!」
「いのちかけないでくださいね~?たいせつなものですから…ぷかぷか…」
珍しく陸にやって来た深海先輩に木から下ろしてもらって、私は思いっきり伸びをする。そして、深海先輩に愚痴をとばす。
「聞いてくださいよー!また薫さんに偶然ができなかったんです!」
「かおるですか…きょうもデートだって、いってましたね~」
深海先輩は水浴びしませんか?と誘ってきた。私はもちろんオッケーした。