第9章 一番風呂が一番良いとは限らない。
雲一つない快晴、今日は絶好の洗濯日和だ。そう思いながら気合を入れての洗濯物を干し終えた女は、先日から真選組で働き出した勘定方兼、女中の市村葵咲。この日は勘定方としての仕事はなく、真選組隊士達も遠征で出払っており、雑用を頼まれる事もなかった。その為、いつもより早く仕事を終えたのだった。
葵咲「よし、っと。今日の仕事はこれで終わりかな。」
そう言って葵咲は伸びをする。ちょうどその時、監察の山崎退が屯所へと帰ってきた。
山崎「葵咲ちゃん。」
葵咲「退君、おかえりなさい。早かったんだね。」
山崎「うん、俺は監察だから一足先に。」
葵咲「そうなんだ、お疲れ様。」
先日の一件で真選組隊士達との距離を縮めた葵咲。どの隊士達ともあだ名呼びや呼び捨て、そしてタメ口で接するようになっていた。とは言っても流石に局長の近藤や副長の土方の事はあだ名呼びは出来ず、さん付けで呼んでいるが。
山崎「葵咲ちゃんは?」
葵咲「うん、私も今ちょうど終わったところ。」
そう言って向けられる葵咲の笑顔に、山崎は仕事の疲れを癒された。
葵咲「あっ、今お風呂沸かすね、ちょっと待ってて。」
山崎「…そういえば葵咲ちゃんっていつお風呂入ってるの?」
葵咲「え?」
何気なくふと思い浮かんだ疑問を言葉にした山崎だったが、これはセクハラになるのではと思い、慌てて取り繕った。
山崎「あっ!いや!別にその時間をチェックしとこうとかそういう意味じゃないから!言いたくなかったら言わなくていいんだけど、ふと、いつ入ってるのかなーって思って。」
葵咲は別にセクハラとは感じていなかった為、態度を変えることもなく、何の躊躇もせずに質問に答えた。
葵咲「皆が入り終わった後だよ。だからー…いつも十一時とか十二時くらいになるかな?」
山崎「えぇっ!?先に入ってなかったの!?」
お湯を入れた直後に入っているのか、もしくは夜の湯を抜いて朝風呂を入れ直して入っていたと勝手に思い込んでいた山崎は驚きを隠せなかった。