第74章 夢は起きた瞬間に忘れてしまう事が多い。
回想シーンは終了し、現在の時間軸へと戻る。
葵咲は一週間ほど前の出来事を思い出し、再び照れたように顔を熱くしていた。土方は少し考えた後、言葉を押し出す。
土方「今日の帰り、暇?」
葵咲「え?」
土方「どっか…その、寄って帰らねぇ?」
顔を赤らめ、頬を掻きながら視線を逸らす土方。そんな彼の様子に葵咲は深読みしてしまう。言いづらそうに誘う寄り道場所とは…。
晴れてカップルとなった二人だ。恋人同士の情事に誘われているゥゥゥ!
未知なる世界の妄想はお花畑に包まれた感じだが、葵咲は顔を真っ赤にして首を横に振った。
葵咲「!! いや、でも私、部活あるしっ!放課後練の後、部活後練もあるしっ!」
土方「部活後練!?」
葵咲「箏曲部(そうきょくぶ)の!筝曲部全国決まって今アツイから!朝練、昼練、放課後練、部活後練、土日は朝から晩までお箏(こと)漬け!」
土方「いや、初めて聞いたけど!?」
想定外の返しに土方は面食らってしまう。そんな土方の驚きを無視して葵咲は続けた。
葵咲「帰ってからもお筝漬けだからね、食事中練も入浴中練も睡眠中練も強制されてるの。」
土方「それただのブラック部活だろ!!」
葵咲「同じクラスの武蔵先輩の目も光ってるし。」
土方「先輩が同じクラスっておかしくね!?」
葵咲「ほら、いるじゃん。メガネ光らせてんじゃん。地味なメガネをさ。」
土方「それ倉田じゃなくて志村ァァァァァ!確かにちょっと似てっけど!それに時瀬は自主連だからね!強制じゃねーから!百谷は朝練も昼練も来ねーから!アイツ週4だから!」
ジャンプSQ連載中の漫画、“この音とまれ!”筝曲部の練習風景と、倉田武蔵の事だった。全く別の世界の話である。