第74章 夢は起きた瞬間に忘れてしまう事が多い。
葵咲「銀ちゃん!!」
目を開けると、そこに広がっていた世界は見慣れない景色。
華月楼…いや、江戸ですらない。
現代の学校の教室だ。葵咲の知っている寺子屋ではない。勿論、そんな事は今の葵咲には分からず、ただ見慣れない景色と認識されただけだった。
周りにいる人間は見たことの無い服を身に纏っており、男子は学ラン、女子はセーラー服だ。皆、机に向かって座っていたが、突如立ち上がった葵咲へと視線を向けた。教室内はざわめいている。
葵咲「え?・・・・あれ?ここ、何処?」
服部「教室。しかも授業中だバカヤロー!」
黒板の前に立つ服部が叫ぶ。服部は持っていた教科書を教卓の上に置き、ツカツカと葵咲の前へと歩み寄った。
葵咲「学校…?あれ?服部さん?どうしたんです?その格好。」
いつもの忍者の服装ではない。違和感のある雰囲気に葵咲は小首を傾げた。ふと自分自身にも視線を落とすと、華月楼潜入時の黒い着物を身につけてはおらず、セーラー服を着用していた。葵咲は思わず眉根を寄せる。
そんな葵咲に、服部は苛立った様子で腰に手を当てて苦言を浴びせる。
服部「寝ぼけるのも大概にしろよコラ。教師に向かって“さん”付けたァいい度胸じゃねーか。」
葵咲「?? 教師…?あれ、私夢見てる?」
ますます意味が分からない。顎に手を当てて服部を凝視する葵咲。目を瞬かせている葵咲に服部は尚更苛立った。
服部「ああ。脳みそはまだ完全に夢の世界に行っちまってんな。」
葵咲「そうじゃなくて、華月楼で違法薬物の取引が行なわれてて。」
服部「おーい。誰かコイツをトイレ連れてって顔洗わせて来い!」