第70章 隠し通路があるのは隠したい何かがあるから。
菊之丞を先頭に三人は牢屋からの抜け道を進んでいく。その抜け道は後付での造りではない。明らかに華月楼建設時から造られたものだ。しっかりとしたその造りが、それを物語っていた。その事に獅童も気付いた様子だ。
獅童「おい、何なんだよ?この通路は…。」
獅童は誰に問い掛けるわけでもなく、無意識にボソリと呟いた。だがその質問を菊之丞はしっかりと受け取っていた。
菊之丞「隠し通路です。松島がもしもの時の為にと、華月楼中に張り巡らせたもの。」
葵咲「私達をここから逃がして貴方は大丈夫なんですか?」
勝手に逃がした事がバレれば処罰を受けるのは菊之丞だ。その事が何より心配だった。だが菊之丞は葵咲を安心させるように優しい笑顔を見せる。
菊之丞「大丈夫ですよ。松島は自分以外この隠し通路を知らないと思っていますから。松島が留守にしている今がチャンスです。」
獅童「・・・・・。」
葵咲と菊之丞の会話に獅童は何も言葉を挟む事無く、ただじっと菊之丞の背を見つめていた。
そして三人は通路の出口へと差し掛かる。菊之丞はひょこっと顔を出し、念の為に外の様子を窺う。誰もいない事を確認して、まず菊之丞が通路の外に出た。
菊之丞「さぁ、こちらです。今のうちに吉原から出て下さい。そして、もうここへは近付かないように。」
振り返って葵咲をじっと見つめる菊之丞。そして今度は獅童の方へと向き直って言った。