第62章 どの組織にも型にはまらない奴がいる。
葵咲「土方さん、入るよー。」
そっと襖を開けて部屋へと入る。
部屋の中は薄暗く、お香でも焚いているのか、妖艶な香りで包み込まれていた。土方は部屋の奥で煙草を吹かしながら胡坐をかいて座っている。その日の仕事は全て終えていた為、もう私服に着替えていた。
一先ず葵咲は土方の前へと正座する。
土方「お前、本気で潜入捜査するつもりか?」
葵咲「勿論!私だって真選組の一員だから。私に出来る事は私がしたいって思ってる。それに今回の案件の潜入捜査は私にしか出来ないでしょ?」
その意見にやはり土方は反対の姿勢を見せる。だが昼間とは違い、今度は至って冷静に異論を唱えた。
土方「山崎に裏から捜査させるって手もあるだろ。客じゃなくても入り込むこたぁ出来る。」
山崎が花魁になるというのは少し想像しづらいが、その事も不可能ではないし、無理だったとしても雑用の下働き等、方法はいくらでもある。だがその土方の意見に対して葵咲は反論を述べた。
葵咲「でもそれじゃ現行犯逮捕出来ないじゃない。」
土方「証拠を固めりゃ逮捕は出来る。お前が無理して身体はるこたァねぇんだ。」
葵咲「別に無理なんてしてないよ。確かに土方さんの言う方法でも逮捕は出来るかもしれないけど、逮捕までに時間掛かるじゃない。それじゃ被害者が増えちゃうし…薬が出回る前に早く解決を…」
土方「お前、本当に遊郭が何か分かってんのか?」
葵咲の意見を遮るように、話途中で土方が口を挟んだ。またそれか…葵咲は心の中でそう思う。話がふりだしに戻ってしまって先に進まない。葵咲はため息混じりに少し呆れた顔をした。
葵咲「それくらい私だって知ってるよ。大丈夫だってば。いくらそういう場所だって客が望まなきゃ無理強いはしないはずでしょ。」
その言葉を聞いた土方は眉間に皺を寄せ、咥えていた煙草を灰皿へと押し付けて火を消した。
土方「…お前、やっぱ分かってねーよ。」
葵咲「え?」
ドサッ。
そこで急に土方は葵咲を畳の上へと押し倒した。