第59章 朝食バイキングは無性にワクワクする。
深夜の仕事を終え、服部は無事帰宅。時計の針は午前二時半を回っていた。営業自体は十二時に終わっていたのだが、片付けや明日の準備でこの時間だ。季節的にも時間帯的にも特段汗を掻いているわけではないが、ひとっ風呂浴びてさっさと眠りにつきたいと思っていた。
服部はフゥとため息をついて玄関の扉をガラガラッと開ける。
葵咲「おかえりなさーい。」
玄関に座り込んで靴を脱いでいると、パタパタと葵咲が駆け寄ってきた。服部は背を向けたまま返事をする。
服部「ただいまー…って えぇ!?お前まだ起きてたの!?」
まさか出迎えがあるなんて思いもしない。時刻は深夜。確実に眠っていると思っていた服部は慌てて振り返る。葵咲は眉尻を下げながらも笑顔で答えた。
葵咲「ちょっと寝てたんですけど、熟睡出来なくて…。」
服部「…悪かったな。明日からは俺が付いててやるから安心しろ。」
葵咲の笑顔は無理しているようにも見えた。まぁそれも仕方ないか。己の身が危険な時に、しかも慣れない他人の家でスヤスヤとは眠れないだろう。何事もないような素振りで笑顔を見せる葵咲、そんな彼女の笑顔の裏には人一倍の苦労や気丈な振る舞いも含まれているのかもしれない。そう思った服部は葵咲の印象が少し変わり、仕方のない外出だったとは言え、葵咲を一人放置して出て行ってしまった事を申し訳なく思った。
だがそんな服部の思いやりは次の瞬間打ち砕かれる。
葵咲「いつもと違った枕に寝慣れなくて。」
服部「そっちかーいィィィィィ!!」
心配して損した。むしろさっきの気持ちをなかった事にしたい。逆に悔しい気持ちでいっぱいになる服部。そんな服部に、葵咲は暖かい言葉を掛けた。
葵咲「お疲れでしょう?お風呂沸いてますよ。」
服部「おっ、気が利くじゃねぇか。」
疲れを落としてさっさと眠りにつきたいと思っていたところだ。これ以上この女と絡んでいても体力を消耗するだけだとも思い、葵咲と話すのは早々に切り上げてさっさと風呂場に向かった。