第56章 優しさは時に相手につけこまれる。

てっきり二人の密談が始まるものだと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
二人を包む空気は少し不穏で、両者睨み合っているようだった。葵咲は桂の言葉を受け止め、眉根を寄せて反論した。


葵咲「でっ、でも…！」

桂「まだ分からんのか。あいつらはお前を歓迎などしていない。敵と見なしていると。」


葵咲に反論意見を述べさせる隙無く、桂は間髪入れずに葵咲を制する。
葵咲は少し寂しそうな表情へと変え、視線を地面へと落とした。


葵咲「そんな事…分かってる。分かってるけど…。」


悲しそうに頭を垂れる葵咲を見て、厳しい表情だった桂もそれにつられるように悲しげな表情へと変える。桂も地面へと視線を落としながら更に言葉を付け加えた。


桂「…お前が面倒見の良い性格なのは知っている。あいつらを放っておけない性質だという事はな。」

葵咲「だったら！だったらここに来させてよ！例え受け入れられてなくても、例え嫌われてるとしても！私にだって出来る事はある！だから…！」

桂「去れ！お前はここにいるべき人間ではない！！」

葵咲「！！」


敢えて突き放すようにキツく言い放つ桂。その言葉に打たれるように葵咲は顔を上げて桂の方を見据えた。