第56章 優しさは時に相手につけこまれる。
真選組屯所、土方の自室。いつになく真剣な面持ちで、山崎が土方へと報告を行なっていた。土方は山崎の報告を聞き、眉を寄せて煙草の煙を吐き出した。
土方「葵咲が不審な行動してる?」
山崎「ええ。」
己の聞き間違いではないか、念の為に聞き返す土方。だが山崎は真剣な表情を崩さずに首を縦に振る。そんな山崎の様子を見て、冗談の類ではない事が分かった。土方は眉を寄せたまま、山崎に詳しい報告を促す。
土方「不審な行動って?具体的にはどんな様子なんだよ?」
山崎「屯所を出る時に人目を気にしてきょろきょろしてたり、出た後は素早くその場から身を消していたり…。屯所内では心ここにあらずって感じで何か深く考え込んでる様子です。」
土方「・・・・分かりやすいな。」
監察の山崎じゃなくても分かる程のあからさまな不審な様子に、思わず呆れ顔になる土方。そこまで怪しいと、逆に怪しい事柄ではないんじゃないかとさえ思えてしまう。
昨今では葵咲の事を仲間として心から信頼している土方。高杉との抗争の時のような攘夷志士との繋がりを疑ってなどいなかった。土方は葵咲を気遣うように一つの可能性を述べる。
土方「男には言えねぇ事情でもあんじゃねぇか?」
山崎「まぁ女の子ですからね。俺も最初はそう思ってあんまり深くツッコまない方が良いかなって思ってたんですけど…少し気になる情報を耳にしまして…。」
土方「なんだ?」
山崎だって馬鹿ではない。しかも高杉との抗争では自分は命を護られている。その事もあった為、山崎も何の根拠もなしに葵咲を疑い等はしていなかった。山崎は自らが収拾した情報を話す。
山崎「桂が何やら不穏な動きをしているようなんです。」
土方「!」