第53章 相手の承諾を得るのに必要なのは粘り強さ。
総悟「何もないんだったら別の男とデート、出来やすよね?」
葵咲「それとこれとは関係なくない!?」
総悟「俺とデートはイヤですかぃ?」
急にニコニコ顔から一変、しゅんと寂しそうな顔をする総悟。そんな捨てられた子犬のような瞳を見て、葵咲は言葉を詰まらせてしまう。総悟を傷付けたような罪悪感に苛まれてしまったのだ。
葵咲「あ…いや…。嫌とか、そういう問題じゃなくって…。」
総悟「他に付き合ってる男がいる、とか…?」
ずいっと顔を近付け、総悟は葵咲の瞳を覗き込む。葵咲は咄嗟に後ろに身を引いて両手を振ってその言葉を否定した。
葵咲「いや、いないけど!」
総悟「好きな男がいるんですかぃ?」
葵咲「それも…いない、けど・・・・。」
総悟「! ・・・・・。」
咄嗟に視線を地面へと落とす葵咲。その仕草と意味深な葵咲の反応を見て、総悟は少し考えるように沈黙を落とすが、やがてまたニコニコ顔へと戻して声を弾ませた。
総悟「じゃあOKって事ですねぃ♪」
葵咲「え?」
コロコロと変化する総悟の百面相と話の展開に追いつけずにいる葵咲。一体今目の前で何が起こっているのか、自分がどんな状況に追い込まれているのかを把握するのに少し時間が掛かってしまった。更に総悟は、葵咲に断られないように間髪入れず話を続け、デートの日程を半ば強引に押し決めようとする。
総悟「じゃあ今度の土曜日はデートって事で。」
葵咲「あ、土曜はごめん。仕事が…。」
これまで完全に総悟のペースに引きずり込まれていた葵咲だが、ぱっと軌道修正して頭を働かせる。日々強い責任感を持って職務に取り組んでいる葵咲は、仕事が絡んでいた為、ふと我に返れたのである。