第49章 犬の散歩は主導権を握る必要がある。
総悟「あっ。すいやせーん。もしかしてあの時、俺泣いてたもんで、『一日』って単語が聞き取りにくかったんですかねぃ?」
土方「!?」
言われて土方は必死に記憶を手繰り寄せる。
(総悟:葵咲に…『俺と(一日)付き合ってくれないか?』って言ってるのを・・・・!!)
総悟の台詞が頭の中を木霊する。確かに、『俺と』と『付き合って』の間に微妙な間があった。だがちょっと待て。その後の台詞も思い出した。『近藤さんになら任せられる。』その言葉の意味は?それを問いただそうとした土方だったが、土方が口を開くよりも先に、それを読んだ総悟がわざとらしく説明を施す。
総悟「田中古兵衛の事件から日が経ってないですし、葵咲が出掛けるのは少し警戒してたんですがねぃ。まぁ近藤さんになら任せられるかなって。」
土方「!!」
先手必勝というやつだ。先にそう言われてしまっては返す言葉もない。土方は苦し紛れに総悟を責め立てた。
土方「つ、つーか、そもそもなんで泣いてたんだよ!あれ絶対ぇ俺をハメる為にやったんだろ!!」
総悟「いや~俺、実はあの時風邪引いてて~。咳き込みすぎて涙出ちまってたんでさァ。」
土方「しらじらしい嘘吐いてんじゃね…」
明らかに嘘っぱちだ。そう思った土方は掴んでいる胸倉を揺さぶるが、総悟はしれっとポケットから一枚の紙切れを取り出した。
総悟「その時の病院の領収書でさァ。一応有休使ったんで貰っときやした。」
土方「!?」
土方の完敗である。ここまで用意周到に準備されていては、そう認めるしかあるまい。土方は掴んでいた手を離した。呆然と立ちすくむ土方を見て総悟はニヤリと笑う。
総悟「じゃ、そういうことで。」
総悟がその場を立ち去り、どう声を掛けて良いか分からない山崎も立ち去る。
ヒュゥゥゥ…。寂しい風が土方を包み込んだ。そして誰にも聞こえない声量で、呟くように謝罪した。
土方「・・・・・・・・近藤さん、ごめん。ホンット、…ごめん。」