第48章 エスコートの基本は道路側を歩くこと。
誘拐事件から数日が経つ。葵咲や銀時の傷は完治とまではいかないものの、八割がた回復へと向かっていた。
そしてそれはこの男にも言える事だった。田中古兵衛、彼の前身の傷もまた回復へと向かってきていた。まだ少し痛みは残っているものの、闘いや生活に支障はない。古兵衛は何事も無かったかのような素振りでアジトへと足を向けていた。古兵衛がアジトへと戻ると、そこには客人が訪れていた。客人の顔を見るなり、古兵衛は目を丸くする。
田中「!」
高杉「古兵衛。」
田中「よぉ。晋助ぇ~。どしたの?俺に何か用??」
驚いた表情を見せた古兵衛だったが、それは一瞬の事で、その顔はすぐさま元の表情へと戻っていた。高杉は煙管の煙を吐き出した後、すぐさま本題へと入る。
高杉「今度の“取引”、お前が行って来い。」
田中「え~。何で俺ェ~?めんどくせーよ~…。」
口を尖らせる古兵衛。それを見た高杉はニヤリと笑みを浮かべた。
高杉「それでこの間の件、全部水に流してやる。」
田中「ぐっ。…あの鍵で流してくれよ~。それに、“鬼の弱み”も教えてやったろ?」
“この間の件”とは勿論、真選組との抗争の事。だがその件では古兵衛の方に非があるだけに、大きくは言い返せない。古兵衛は頭を掻きむしりながら片目を瞑って反論するが、高杉は引き下がらなかった。