第40章 隠し事は案外バレている。
今から時は遡ること数週間前。コミック第29巻、252訓の話である。
田中古兵衛と間違えられて善良な市民、田中加兵衛が連行された。
だがその誤解も無事(?)解けたその後のお話。
「今、本物の古兵衛つれてくるんで、ちょっと待ってて下さい。」
取調室に取り残された近藤達は、がっくりと肩を落とした。無理もない。飴と鞭作戦で精根使い果たしたにも関わらず、その苦労は水の泡となったのだから。
近藤は何ともいえない顔で土方の方を見た。
近藤「なんか拍子抜けしちまったな…。」
だが土方はそんな近藤の意見に同意するのではなく、真剣な眼差しで首を横に振る。こういう時、やはり頼りになるのは土方の方なのかもしれない。もうしっかりと頭を切り替え、本物の田中古兵衛に備えていた。
土方は煙草に火をつけ、近藤の方へと視線を返した。
土方「何言ってんだ。これからが本番だろうが。」
幕府の役人三十五人を殺害した凶悪な殺人鬼。人斬り古兵衛と呼ばれる過激攘夷派暁党の幹部。幕吏四十数人に包囲され、全身十数か所の刀傷を受けながらも顔色一つ変えずに応戦し、幕吏七人を殺害。捕縛後も一切の尋問・拷問に動じず、一言も発さず口を閉ざしたままでいる…。
土方「その本物の古兵衛がとうとうお出ましってわけだ。気合入れろよ。」
近藤「あ、ああ。そうだな。」
そう言われて近藤も気を引き締めなおした。
それから少しの時間も経たないうちに、本物の田中古兵衛が取調室へと連れてこられる。黒髪・金メッシュの、あの男である。だがその身は田中加兵衛同様、全身を拘束具に包まれていた。
古兵衛は椅子へと座らされる。そしてヘラヘラと不気味な薄ら笑いを浮かべながら、近藤達の方へと視線を向けた。近藤達はまだ部屋の外にいる。
この部屋はマジックミラーとなっている為、古兵衛側から近藤達は見えないはずだ。だが、不思議と目が合っている感覚になる。全てを見透かすかのような雰囲気も、この男の不気味な要素の一つだった。
近藤・土方「!」
ビリビリと発せられる威圧感。それは窓越しにも伝わってきた。