第40章 隠し事は案外バレている。
葵咲が退院して数日が経つ。
葵咲は普段どおりの仕事へと戻り、真選組隊士としての仕事、勘定方としての仕事、そして女中の仕事をてきぱきとこなしていた。体調はほぼ全快である。
ある日の夕方、夕食の下ごしらえをする為に食堂へと足を向けようとしたその時、背後から総悟に声を掛けられた。
総悟「葵咲。」
葵咲「そーちゃ…。あ…。えっと、沖田さん。」
声に反応して振り返る葵咲。思わず口を出そうになるのは、“そーちゃん”という呼び方だった。無理もない。屯所に来てから数ヶ月、ずっと呼んでいた呼び名だ。それをすぐにやめるというのは難しい話だろう。
そんな葵咲のぎこちない反応を見た総悟は、呆れ顔になっていた。
総悟「何ですかぃ、その呼び方は。」
葵咲「だって『そーちゃん』は、お姉さんの呼び方かなって。でもまだ慣れなくて…。」
困ったような顔をして頭を掻く葵咲。だが、総悟がそんな葵咲に対して呆れ顔になったのは、“そーちゃん”が口を出てしまったからではないらしい。総悟は眉根を寄せて苦言する。
総悟「だからって何で遠くなってんの。」
葵咲「なんて呼べばいいか分かんなくて…。」
しどろもどろになる葵咲を見て、総悟は深くため息をつく。
そして、今度はずいっと葵咲に顔を近付けて瞳の奥を覗き込んだ。
総悟「・・・・“総悟”。」
葵咲「え?」
急に近くに来た総悟の真剣な顔に葵咲はドキリとする。思わず一歩後ずさり、顔を離した。
そして総悟はそんな葵咲の反応を面白がるように壁の方へと追い込み、壁に左手を当てた。女子の誰もが憧れる壁ドンである。
総悟「総悟って呼んで?」
葵咲「そっ、総悟…君。」
近付く顔と、呼びなれぬ名を呼ぶ恥ずかしさとで顔を真っ赤にして俯く葵咲。言葉尻は小さくなるばかりだ。
そんな初々しい反応を見て尚更面白がるように胸を躍らせる総悟。そこはやはりドS魂がものをいうのだろう。
総悟は俯く葵咲の顔を更に覗きこんで顔を近付けた。