第34章 トラウマを克服するのに必要なのは身近な人の温もり。
チュンチュンチュン…
スズメのさえずり声が聞こえる。すっかり雨も上がり、爽やかな朝の日差しが病室内へと注ぎ込んできた。
土方「ん…朝か。おい葵咲、起きろ。葵咲。」
葵咲「スー、スー。」
肩を揺すり、葵咲を起こそうとするが、ぐっすりと眠っていて起きる気配がない。
土方「・・・・・。」
葵咲の頬にそっと手を触れる土方。そのままあごを掴み、くいっと上を向かせる。
土方が葵咲の寝顔を覗き込もうとしたその時、病室の扉が開いた。
土方「え?」
土方が扉の先に目を向けると、そこには山崎が立っていた。
山崎「あっ!」
山崎はバツが悪そうに口を手で塞ぎながら顔を赤らめる。そしてそんな山崎の後ろには、銀時達、葵咲を探しに行った五人が立っていた。
五人は夜通し葵咲を探していたのだ。病院内を駆け回るが見つけられず、もしかすると恐怖でパニックに陥って外に出たのではと危惧した故に、そのまま病院を出て、その周辺も探し回っていたのだ。
銀時「・・・・・。」
土方「えっ!?」
山崎と長谷川以外の四人は病室内へと静かに入り、土方の前で足を止めて見下ろす。
銀時「…何やってんだ、てめぇ…。」
土方「いや、ちょ!違う!まだ何もしてねぇ!!」
土方は慌てて葵咲の顎に触れていた手を離し弁解する。だが、それは逆に墓穴を掘ってしまったようだ。
銀時「・・・・『まだ』?」
土方「!! いやっ!違っ!!」
妙「乙女の弱みに付け込むなんて最低…。」
九兵衛「人の風上にもおけん奴だ…。」
神楽「粛清が必要アル…。」
手をポキポキと鳴らしながら構える四人に、土方はなおも焦る。
土方「待て!話聞けよ!俺は…。」
銀時「テメーは永遠に眠りやがれェェェェェ!!」
土方「誤解だァァァァァ!!」
爽やかに迎えたはずの朝だったが、それは断末魔によってかき消されたのだった。
葵咲のトラウマも無事取り除かれ、四人はそれぞれの家へと帰ることにした。無事一件落着。ただ一人を除いては…。
新八「僕がトラウマになりそう…。」
優勝者、志村新八。新八は誰にも見つけられる事無く、一人寂しくとぼとぼと病院を後にした。
後日、優勝賞品が送られてきたのかどうかは新八だけが知っている。