第30章 人間大事なのは肩書きじゃなくて、中身。
このような女々しい感情は、真選組に属する男には分かりえない事なのだろうか。これからも真選組に残るのなら、泣き言を言ってはいられないと、そう思い直して葵咲は涙をぬぐう。
しかし、次に届けられる言葉は葵咲が考えていたものとは異なっていた。
土方「お前は俺達を見くびりすぎだ。そんなしょーもねぇ理由でお前を見てねんだよ。」
葵咲「え?」
土方の言葉の意味を、葵咲は読み取れずにいた。それを近藤がフォローするかのように噛み砕いた説明で言葉を加える。
近藤「トシの言うとおりだぞ、葵咲。俺達はお前の名前や生い立ちが気に入って真選組に受け入れたんじゃない。お前の魂に惚れたんだ。まぁ確かに、入隊させる理由として『市村家』の家紋は利用させてもらったがな。」
葵咲「!! あり…がとう、ありが・・・とう。」
ぬぐったはずの涙が再び零れ落ちた。
そしてそんなしんみりした空気を払拭するかのように山崎が割って入る。
山崎「そういえば副長、あの時『葵咲ー!』って叫んでませんでした?いつもは『市村ー』って呼んでんのに。」
土方「ばっ!!アレは!その場の雰囲気っつーか、お前らがそう呼ぶから釣られてっつーか、何っつーかだな…!」
どうやら無意識だったようだ。土方は顔を真っ赤にして弁解する。
山崎「じゃあもう葵咲って呼ばないんですか?」
土方「いや、別に…どっちでもいいだろ、そんなの!」
バツが悪そうに顔を背ける土方。山崎は追い込むように土方を、なおもからかう。
山崎「あ、照れてる~。」
土方「山崎ィィィィィ!!」
山崎「ぐはっ!」
調子に乗ってしまった山崎は、当然の事ながら土方から鉄槌を食らった。病院内を明るい笑い声が包み込む。
そしてまた、看護士から院内ではお静かにと注意をされるわけだが、それでも笑いは止まらないのだった。