第26章 平穏な日々は長くは続かない。
その日の夜のこと、土方は仕事を終えて屯所へと戻る。
この日は夕食も外で済ませてきた為、食堂等にも立ち寄らずに自身の部屋へとすぐさま向かった。
淀みなく歩んでいた土方だが、部屋の付近でふと立ち止まる。自分の部屋から誰かが出てきたからだ。
葵咲「・・・・・。」
葵咲である。神妙な面持ちで出てきた葵咲に、土方は怪訝な顔をして声をかけた。
土方「どうした?何かあったのか?」
葵咲「(びくっ!)ギャアァァァァァ!!」
土方「うぉおぉぉぉ!!」
土方の気配には気付いていなかったのか、葵咲は跳ねるように驚いた。そしてその驚きに土方もまた驚いた。
土方「び、吃驚させんなよ!」
葵咲「それこっちのセリフですよ!!」
そこまで驚くとは思っていなかった土方。急に声を掛けて驚かせてしまったことに一言謝罪を入れる。
土方「わ、悪ぃ。」
葵咲「マヨ霊でも出たのかと思ったじゃないですか。」
土方「誰がマヨ霊だコノヤロー。」
いくらマヨネーズ愛好家の土方とは言え、自分の嫌いな霊と一緒にされるのは気分が悪いらしい。不機嫌そうな顔で葵咲を睨み付けた。だがその表情をすぐに改め、自身の部屋へと訪れた訳を尋ねる。
土方「俺に何か用か?」
葵咲「来月の献立表出来たので持って来たんです。机の上に置いておきましたよ。」
土方「そうか。」
先程の神妙な顔つきは消え、いつもの笑顔に戻っていた。
土方は自分の思いすごしだったのだろうかと思い直し、それ以上は特に問い詰めることはしなかった。
葵咲「じゃあ、私はこれで。」
そう言って葵咲はさっさと立ち去ってしまう。土方も葵咲に特に言い渡す仕事等もなかったので、そのまま自身の部屋へと入った。
土方は煙草に火を点けながら、葵咲の置いていった献立表を手に取る。その時、机の引き出しが半開きになっている事に気が付いた。
土方「ん?引き出し…空いてたか…。」
土方は開いた引き出しをさっと閉めた。