第105章 備えあれば憂いなし。
会議室に重い空気が流れる。背筋に冷たいモノが走った。ブルルッと背を震わせながらも近藤が苦笑いを浮かべて言葉を紡ぐ。
近藤「改めて聞きゃゾッとする話だな…。」
松本「実験がほぼ完成してしまっている今、いたちごっこになる可能性は大いにあります。油断は出来ない状況ですけどね。」
山崎「けどまぁ手口が分かってれば、急遽大量に人員募集する施設は キナ臭いって事で目星は付けやすいやすいでしょ。」
松本の意見も山崎の意見も、どちらも頷ける内容だ。油断ならない状況に変わりはないが、何も知らないよりは良い。今回、萩へと訪れたのは偶然の産物にすぎないが、事件を収束に迎えられた事は不幸中の幸いと言えるだろう。それに今後の対策を練る事も出来る。
そしてここで、何かを思い出したように土方が顔を上げて松本へと質問を投げた。
土方「葵咲に投与された薬は?何か分かったのか?」
土方からの質問を受け取り、松本は表情を曇らせる。視線を落としながら、言いずらそうに言葉を押し出した。
松本「それが…それだけがまだ分かっていないんです。工場内、隈なく資料等探したのですが、それらしきものは見付からず…。」
土方「緒方の方からは?取り調べは始まったんだろ?」
松本「ええ。ですが彼はのらりくらり、ですね。依然黙秘を続けています。」
近藤「まぁそう簡単に口を割るはずもねぇ…か。」
今回の事件の主犯である緒方滞庵。彼はその重篤な怪我の症状から現地の病院へと緊急搬送された。だがその後、治療により回復し、ICUから一般病棟へと移ったとの事。後日、見廻組によって江戸へと搬送される予定だが、江戸での受け入れ態勢が整うまで、萩の地で先に取り調べが始まったのである。