第104章 第百四訓 「真剣勝負にドーピングは邪道。」
そして葵咲もまた、倒れた緒方に歩み寄り、哀しそうな表情を浮かべて語り掛けた。
葵咲「緒方さん、確かに貴方の言うとおり、色んな能力や力を手に入れれば生活は豊かになるかもしれないし、楽になるかもしれない。けど、人の領域を超えちゃいけない。人である事をやめちゃいけない。人として生きるからこそ人生。限られた領域時の中で歩むからこそ、人生は輝くし、楽しく美しいものになる。私はそう思います。」
倒れた緒方は意識を保っていた。葵咲の言葉を聞いてピクリと動き、うつ伏せ状態のままそれに答える。
緒方「…綺麗ごとを言うけれど。君の言葉には何の説得力もない。」
葵咲「確かに私に医学の知識は…」
皆無である。緒方に説教を出来る立場ではない。その事を言っているのだろうか。葵咲が怪訝な顔を浮かべて緒方を覗き込もうとすると、緒方はニヤリと笑い、その隙をついて倒れ込んだ状態から葵咲の脚に注射器を突き立てた。
葵咲「っ!」
土方「!?」
完全に油断していた。それは葵咲だけでなく、土方や桂も同じ。まさかこの期に及んで悪あがきの如く仕込まれるとは思いもしていなかった。
葵咲は飛びのいて緒方から離れるも、時既に遅し。何らかの薬品は注入されてしまった後だ。葵咲はその場にしゃがみ込んで注射器を抜く。
葵咲「ぐ…っ!」
土方「葵咲ァァァァァ!!」
桂「っ!貴様ァァァァァ!!」
土方はすぐさま葵咲の傍へと駆け寄り、桂は緒方を抑え込んだ。緒方は葵咲に一矢報いた事に満足してしまったのか、桂に抑え込まれても何食わぬ顔。むしろ高笑いを始めた。
緒方「ククッ。クハハハッ。」
少し離れた場所から闘いの様子を窺っていた松本が慌てて葵咲の傍へと駆け寄る。
松本「見せて下さい!」
松本が駆け寄って来た様子を尻目に、土方は緒方に向かって叫んだ。
土方「てめぇ!!葵咲に何しやがった!!」
緒方「ケヘヘッ。さぁ?何だろうねぇ?」
土方・桂「っ!!」
一瞬の心の緩みが悔やまれる。土方と桂は下唇を噛んで緒方を睨んだ。