第94章 タイムカプセルの中身にも格差がある。
少し車を走らせたところで、窓の外を眺めていた葵咲が小さく挙手して口を開いた。
葵咲「すみません、ここで少し停めてもらっても良いですか?」
長谷川「どうした?」
葵咲「ちょっと厠に行きたくなってしまって。」
萩に着いてからというもの、墓参り、松下村塾跡と厠に立ち寄れていない。しかも椿西まではナビを確認すると三十分以上の時間を要するようだった。この地で渋滞に巻き込まれる事はなさそうだが、何があるかは分からない。たまたま見付けた農村で済ませようと思ったのだ。
なお、勿論の事ながら土方達も葵咲達の後をタクシーでついて来ていた。だがここで思わぬ方向転換、急遽車が停められた為、割とすぐ後ろについていた土方達はそれを通り過ぎるしかなかった。一緒に停まれば不自然で尾行がバレてしまうだろう。しかも長谷川が車を停車させたのは見晴らしの良い場所だった為、隠れて停車する事もままならなかったのだ。
長谷川は農村の入口あたりに車を停める。葵咲が車から降りると、長谷川は村の奥の方を指差しながら言った。
長谷川「じゃあここで待ってっから。この道を真っ直ぐ行った先にある公園に厠があったはずだぜ。」
葵咲「有難うございます。」
車内から村の様子を見やる銀時と桂。二人は目を細めて訝しげな表情を浮かべる。
銀時「なんか異様な雰囲気しねぇ?」
桂「…そうだな。」
幾度となく死線をくぐり抜けて来た者の勘とでも言うのだろうか。何か嫌な雰囲気を感じ取る銀時と桂。二人は目を見合わせて頷き、銀時が車から降りた。
銀時「葵咲!俺も行くわ。」
葵咲「? うん。」
村内の方へと歩を進めていた葵咲だったが、銀時に呼び止められて振り返る。二人は並んで村へと入って行った。