第91章 ホームセンターでの買い物は行き慣れた店が買いやすい。
土方は渋々、葵咲が有休申請をした時の状況について説明した。事情を聞いた松本は納得の姿勢を示す。だが危うい二人だけに尾行を任せられず、松本も一緒に尾行する選択肢を取る。そしてここまで話を聞いたよしみで近藤も同行する事にした。
松本「やれやれ。誰が執行猶予付の犯罪者か分かりませんね。」
三人「・・・・・。」
ストーカー気質の警察三人の方が、執行猶予付の医者よりよっぽど犯罪者寄りの行動をしている。それについて呆れたような声を漏らす松本には誰も言い返す事が出来ない。
そして葵咲の尾行へと戻る四人。葵咲へと目を向け、山崎が何かに気付いたように発言する。
山崎「そういえば珍しいですね、葵咲ちゃんが黒い着物なんて。」
近藤・土方「!」
近藤「そういや、そうだな。」
葵咲は華月楼潜入時には黒い上質の着物を着用していた為違和感がなく、その事に気付くのが遅れた松本。確かに言われてみれば普段の装いは草色の着物だ。山崎の意見に松本は静かに頷く。真っ黒い着物を着用しているのは至極珍しい。
注意深く葵咲の様子を窺う四人。珍しいのはそれだけではない。誰かを待つ葵咲の表情は、何処か儚げで美しい哀愁を帯びているようにさえ感じた。いつもと雰囲気が違う。
そんな葵咲の様子を見て松本は独自の見解を述べる。
松本「いつもと違う着物に身を包む行為は、周りからは自分と気付かれにくくなるという事。しかも色は黒…。目立たないように、周りの目に止まらぬようにしている、という事でしょうか。」
松本の頬を汗がつたう。それを見て息を呑む三人。一瞬同意しかけた近藤だったが、慌てて首を横に振った。
近藤「い、いやいや~葵咲に限ってそんな…。」
近藤が全てを言い終わらぬうちに、松本がまたもや何かに気付いたように声を上げる。
松本「しかも何です?あの大きな荷物。あんな大荷物を抱えている葵咲さんは初めて見ます。」
山崎「・・・・・。」
そう、葵咲は大きめのボストンバッグを抱えているのだ。確かにそんな葵咲は初めて見る。そういえば、今回の休暇を取得する際に遠出をすると言っていた。旅行だろうか。となると相手は妙や九兵衛あたりだろうか。それとも最近交流の増えた月詠か…。いずれにせよ、それならば何も心配する事はない。相手が訪れたと同時に解散出来る。