第66章 【烏と狐といろいろの話 その7】
「瀬見さん、相変わらずてどの辺の話です。」
「いや俺ら含む色々引き寄せてるし、兄貴もシスコン変わってないみたいだし。てかさっき及川から聞いたぞ、トイレ行くだけで大事(おおごと)だったらしいな。」
「穴掘って隠れとなってきた(隠れたくなってきた)、アナジャコみたいに。」
「名前はシャコだけどエビ目のほうだね。」
「さすがやっちゃん。」
「甲殻類がどうかしたのか。」
ここで随分と落ち着いた低い声が響く。
「そこ行きはりますか、牛島さん。」
「久しぶりだな、エンノシタ美沙。話を聞く限り、今までになく妙なことになっているようだが。」
「さっきエンジェルフィッシュみたいなイケメンにほんまのこと言われてもたと思(おも)たら、天然ボケの人にここまで言われるて何事なん。」
「俺は天然ボケじゃない。」
「まだ言うてはる。」
「待ておい、エンジェルフィッシュみたいなって俺のことか。」
「その瀬見と重なってすまないが」
牛島は重々しく言った。
「関西から稲荷崎の宮兄弟と主将を引き寄せた挙げ句、兄のほうは妹への過保護と依存が加速している。」
「兄はともかく、宮さんズと北さんのはわざとちゃうんですけど。」
普段は義兄相手でもろくに目を合わせない癖に、ぶすっとした顔で牛島を見上げて反論する美沙、それを見た女子マネ達は清水以外動揺している。
「それだ。」
一方で牛島も咎(とが)めない。おそらくこちらはこちらで本当に何も考えていないのだろう。
「ここまでの大事(おおごと)が狙って引き起こされたものではないという。お前のほうが余程の天然ではないのか。」
「ばっ、若利っ。」
「牛島さんっ、ままコだからってなんでもかんでも言っちゃダメですっ。」
3年の山形隼人が怒鳴り、1年の五色工が叫ぶももう遅い。女子マネ達は察して耳を塞ぐ。