第65章 【烏と狐といろいろの話 その6】
治が尋ねると力はうん、と答える。
「治君の認識がどうなってんだか知らないけど、白福さん達は大丈夫。」
「女子やからか。」
「純粋に妹かペット枠で愛でてるから。」
「俺とか及川くんは。」
「侑君も及川さんもノリが軽過ぎ問題があるからなあ。」
「北さんっ。」
「心に決めた人がおる子をやたら触る奴らが悪い。」
「木兎さん、聞きましたか。あなたも含まれますよ。」
「なんでーっ。」
全くもって察していない木兎が叫んだところで、美沙が、あ、と呟いた。
「私、お手洗い行ってくる。」
唐突だった。連続で舞い込んでくる訳の分からない事態に対してわあわあ言っていた割には汗をかいていなかったせいだろうか。
突っ込みたくなる読者もおられるだろうが、こういうものはそれぞれの体質によるので言っても仕方がない。
一方で義兄の力は唐突な義妹の申し出には突っ込まずに、ああ、と応じた。
それだけなら何の問題もないはずだった。
「でもちょい待ち。」
本来問題にならないはずのことなのに、何故かここで義兄はお手洗いに行こうとした義妹を止めた。
嫌な予感どころか悪寒がしてきそうや、と止められた本人―つまり美沙―は思う。
「白福さん、雀田さん、すみません。」
義兄が梟谷のマネージャー達に呼びかけたところで美沙は、そら来た、と思った。
無自覚にげんなりしたのが思い切り顔に出ていた為に宮兄弟がなんやなんや、今度はどないした、とこれで何度目かのワクワクテカテカ状態になっていたのだが、そこには気がついていない。
「美沙についていっていただけませんか。」
縁下力、美沙の義兄妹半径2メートル以内が一瞬凍結したようになった。
義兄殿から発せられた一言があまりにあんまり過ぎて宮兄弟は当然のこと、力の溺愛劇に慣れているはずの赤葦、あまり深く考えない木兎、早々のことで動じない北ですら固まっている。