第65章 【烏と狐といろいろの話 その6】
一方で山本が暴走している。
「あっ、ご挨拶が遅れましたっ、お兄さんもお久しぶりですっ。」
「や、やあ、山本君。あの、毎回言ってるけどお兄さん呼びと敬語は勘弁して。」
「いえっ、美沙さんのお兄さんなのでっ。」
「それは事実だけど。」
力が山本の相手をしている間に、双子がおお、と乗り出してきた。
「なんやなんや、またなんか来たで。」
侑が目をキラキラさせて面白がる。
「話に聞く東京のファンか。」
治は口調こそ静かだが、全身からワクワクテカテカが溢(あふ)れている。
「ままコちゃん、なんやかんや言うてオフラインでモテモテやん。」
「別にモテモテとかそんなんちゃうもん、運良くお友達になってもろただけで。」
ニッコニコで美沙をからかう侑に、山本が反応した。
「てめーっ、純情な美沙さんをおちょくるんじゃねえっ。いくらあの稲荷崎の宮兄弟でも許さんっ。」
「ちょお山本さん、落ち着いて私特に純情ちゅうこともな」
美沙が制止しようとするも山本は止まらない一方
「クロ。」
「言われるまでもねえよ、研磨。おいこら山本っ、ただでさえ地味リボンがややこしいとこへ火に油を注ぐんじゃねえっ。」
「地味リボンって、今リボンつけてないよな。」
「球彦君、そっちの話は後でね。」
音駒側も動きを見せていたが、
「ままコちゃん、えらい強火のファンついてるやん。」
こっちで治も口を開いて事態は更に進行する。
「いやあの、なんちゅうか」
「美沙さんは俺の天使だからなっ。」
「私別に天使ちゃう言うとんのに(言ってるのに)。」
「面白いなあ、ままコちゃん、このやかましいのに何したん。」
「侑さん、私が何したとかやのうて」
「美沙さんは初対面で失礼を働いてしまった俺に対しても優しくしてくだすったんだっ。」
「いや、まず失礼働くなや。ままコちゃん、怖(こわ)なかったん。」
「なんだとっ、ええと。」
「そちらは治さん。」
「宮治、てめーっ。」
「田中先輩と西谷先輩とおんなじノリやったから、悪い人やなさそうと思(おも)て。」