第64章 【烏と狐といろいろの話 その5】
「も、茂庭さん。」
茂庭要がニッコリ笑って二人を見つめていた。
が、美沙も二口も動けない。
「二人とも、いつまでやってるんだ。」
「ふ、ふぎゃあっ。」
茂庭はやはり笑顔のままであったが、美沙はたちまちのうちに慌てふためき、二口に頭を下げた。
「二口さんっ、二度も申し訳ないですぅぅぅぅぅぅぅっ。」
「俺も今回はマジ悪かったっ。」
二口も謝罪を返した。前代未聞である。
そして喧嘩を収めた茂庭は大変笑顔でうんうんと頷く。
そうして二口は茂庭に呼ばれた青根に引きずられて伊達工側に戻され、美沙の方は義兄の力が手を引いて稲荷崎勢が待っているところに戻される。
「妹が申し訳ありません、茂庭さん。」
「いや、こっちも二口が大概だったから。ホント大変だね、縁下君も。というか稲荷崎の皆さんが一番大変か。」
「俺らはおもろ、いや、面白かったからおっけー。」
「ままコちゃんがツムに対抗出来るわけもようわかったし。」
面白がる双子に対し、
「とりあえず、こっちのことはまあ気にせんと。ただ」
ここで北がチロリと美沙を見る。
「ままコさんはもうちょい落ち着かんとな。あない(あんなに)野郎とぎゃあぎゃあするもんやない。」
美沙はうっ、と唸ってから、小さくはいと返す。
北はそれを聞いて顔はともかく、満足げな雰囲気を醸(かも)して
「やっぱり可愛らしいな、自分。」
と何故か美沙の頭をなでなでしだし、美沙もされるがままだった。
それを見た茂庭はへえと呟く。