第64章 【烏と狐といろいろの話 その5】
園内は広かったし、様々な音楽や効果音が鳴りまくっていたし、客は大勢だったしで幸い美沙の叫びはそこまで他所様へは響かなかった。
が、しかし聞こえるところには聞こえたらしい。
「大地さんっ、あっちから美沙のふぎゃあが聞こえるっス。」
「やっぱりか、こら、スガーッ。」
「あ、大地。」
菅原がのんびり言うまでもなく、主将の澤村大地以下、烏野高校男子バレーボール部の面々が到着した。
「あ、じゃないだろっ、お前という奴はっ。」
「まあまあ、教頭のヅラ吹っ飛んだ事件よか大分軽いじゃん。」
「他校いる前でその話やめろ。」
「そんな笑顔で怒るなってー。とにかくもう今更なんだし。」
「スガ、その辺にしてくれ、俺らの心臓がもたないっ、てか特に俺っ。」
早速副主将を叱りつける主将、呑気に受け流す副主将、オロオロしだすエースの様子に先ほど叫んでしまった美沙がまたプルプルし始める。
「菅原先輩が強心臓過ぐる、私やったらあんなんアカン、無理。」
「お化けは平気やったのに。」
「侑さん、ちょお近い。だって澤村先輩の怒り方、兄さんそっくり。」
「何か言ったかい、美沙。」
「なんもない。」
「なるほど、ままコちゃんが北さんの言う事は聞く訳やと。」
「今俺を引き合いに出したんはなんか意味あるんか、治。」
「なんもないですっ。」
阿呆なやり取りを狭んだところで力が、で、と呟く。
「それはそれとして、菅原さんが飛んできた原因お前だろ、田中。」
田中龍之介はひとたまりもなく動揺する。
「スマン縁下っ、まさかここまでになるとはっ。」
「田中先輩。」
「縁下妹もスマンっ。」
「兄さん。」
「うん、勘弁できないな。」
「いででででっ、縁下、頭頭っ、縁下妹もそんな目で見んなっ。」
力に頭を掴まれてギチギチされる田中、それを止めずに佇む美沙を見ながら烏野側では日向翔陽が震えている。