第63章 【烏と狐といろいろの話 その4】
ということで、まま兄こと縁下力にちゃんと許可を得てその義妹を連れている宮侑である。
そしてこの少年、ルンルン気分を丸出しにしていた。
誰がどう見てもモテるご面相、相手なぞ選び放題であろう。
というか烏野食堂で思い切り田中冴子に見入っていた癖に、どういうわけだか縁下美沙を相手にえらく高揚している。
気分ええわあ。
力の言いつけどおり、離れないように繋いでいる美沙の手を気にかけながら侑は思った。
修学旅行で出くわした時から美沙が全体的に骨が細く、他の連中が言うところの華奢(きゃしゃ)であることはわかっていたが、こうして結構な時間手を握ってやっていると尚の事その繊細さを感じる。
そしてどういうわけか、それが侑にある種の癒やし効果をもたらしていた。
一方でハンドルネームままコこと縁下美沙は一緒に入館待ちの列に並びながら何やらブツブツ言っている。
「及川さん時(及川さんの時)やあるまいし、私はいつから図書館の本みたいになったんや。」
辺りがかなり騒がしいにも関わらず侑はそれを即聞き取った。
「青城の及川くんがどないしたて。」
美沙はそれが、と一呼吸おいて答える。
「いっぺん及川さんがデートしたいから私を貸してっちゅう、とてつもなく血迷(ちまよ)うたことを兄に打診してきたことがあって。」
聞いた瞬間に吹き出しそうになった侑を逆に笑うことは出来ないだろう。
「何それ。及川くん、そんなんしたん。」
「しました。で、結局兄が許可して私は貸し出されてデート的なことに。」
「俺が言うのもなんやけど、及川くんヤバいやん。」
「最初、私のことパグ犬扱いしてるんか思いました。」
「なんでパグ。」
「自分を引き立てる用のペットや思てはれへんかな(思っておられないかな)って。」
「疑い方が独特過ぎん。お兄ちゃんもよう許可したな。」
「大分頑張って抵抗してくれたらしいんですけど、及川さんが存外しつ、もとい熱意すごかったみたいで。」
「今"しつこかった"て言いかけたやろ。ほんでままコちゃんもOKした、と。」
「及川さんには恩があるし、知らん人やないし、兄が許可したくらいやしと思て。」
「最終的な判断基準はお兄ちゃんなんやね。」