第62章 【烏と狐といろいろの話 その3】
次の日の朝、義兄の部屋でそんな攻防があったとも知らず、縁下美沙はベッドから這い出して寝ぼけ眼をこすりながら洗面所へ向かおうとしていた。
「あ、ままコちゃん、おはよう。」
「おはようさん。」
部屋を出た途端に、宮治と北信介とはちあわせる。
「治さん、北さん、おはよーございまふ。」
ちゃんと挨拶しようという意思はある美沙だが、寝ぼけていて舌が回っていない。
「えらい寝ぼけてるけど、まさか夜更かしでもしたんか。」
北に言われて美沙はビクッとする。
実をいうと心当たりがあったのだが、いくらなんでも北に言いたくない。
とは言え、義兄相手と同じく隠しきれる気もしなかった。
「まあ、ええわ。」
一方北は、存外それ以上突っ込んでこなかった。
「ほんで、治さんが笑てはるんは。」
治は美沙と北が話している間、1人で肩を震わせていた。
「別に。」
「別にで済む笑い方ちゃうし。」
「治、失礼やで。」
「あ、すんません、ままコちゃんの寝巻きと履きもんがおもろいとか思てないです。」
「全部自分で言うてはるやん。」
「せやけど」
ぷぷぷと吹きそうになりながら治は続ける。
「兎の寝間着に兎の草履て、小学生か。」
確かに美沙は細かい兎のシルエット柄が入った上下のパジャマに、鼻緒に大きなぬいぐるみの兎の顔がついた草履風の部屋履きという姿である。
線の細い見た目も相まって若干背丈のある小学生に見えても仕方ないかもしれない。
「これ着心地良うて楽やから。それにスタイル悪いもんが露出度高いの着てウロウロしたらただの迷惑でしょ。」
「朝もはよから微妙に変な劣等感出すんやめえ。問題はそこちゃうやろ、わかってて言うてるんやったらなおタチ悪い。」
「すみません。」
北に叱られて美沙がしょぼんとしたところで
「おはようございます。」
「北さん、はざまーす。」
義兄の力と侑がやってくる。
「あの、何か不具合でも。」
義妹の様子にすぐ気がついたのか力が言うと、北はいや、と答える。