第61章 【烏と狐といろいろの話 その2】
「兄さーん、お願いやからあ。」
初対面の人がいる前で義兄の片腕を引っ張る美沙、恥ずかしいのが一番だが影山確かお姉さんおったよな、そっちから抗議来たらどないしょうという焦りもある。
そんな中、
「ままコちゃん、任しとき。」
ふと侑が言った。
しかし美沙は胡散臭いという感情を隠さずに自分よりもでかい少年を見上げる。
「この名前の件は侑さんが原因や思うけど。」
「ほんまの事言われとるぞ、ツム。」
「せっ、せやから俺が責任持って収めよって話やんっ。」
「どないしはりますのん。」
尋ねる美沙に侑はニイッと笑い、美沙はまた思わず嫌な顔をしてしまった。
美沙は気がついていなかったが治も同時に似たような表情をしていて、傍から見ているとこれも面白い話である。
「まま兄くーん。」
一方、無駄に朗(ほが)らかな調子で侑は力に言った。
「ままコちゃん抱っこしてええ。」
「コラーッ、なんのお伺い立てとんのっ。」
「初日から阿呆全開やん。」
美沙が突っ込み、相方が呆れ返ったが
「いいって言うと思うかい。」
侑に反応して力が振り返った。
途端に注意が逸れ、影山の口を引っ張っていた手が離れる。
解放された影山は当然、即座に先輩から距離を取る。
まさかの効果覿面(こうかてきめん)であった。
「えー、おもんな(面白くない)。」
「それは俺の台詞かな。」
「兄さん、兄さん。」
また侑とバトルになりそうなところへ美沙が口を挟み、ここで力はやっと我に返った。
「あ、ええと」
すごくバツが悪くなっている。
「影山、すまん。俺、またやっちまったな。」
「いえ、宮さんにままコの前の名前喋ったのは事実なんで。すみません。」
「いや、今のは兄さんがやり過ぎ。私気にしてへんから大丈夫やよ。」
「ままコ、言ってくれるのはいいけどよ、いきなり背中撫でんのやめろ。」
「だって私、寸が足りんから背中までしか手届かんし。」
「そういう話じゃねえっ。」
そういったやり取りを経てなんだかんだ影山は落ち着き、じゃあ失礼しますとその場を去っていった。