第59章 【王者の恩返し】 その6
そんなこんなで及川も落ち着き、他所様も大分騒がせてしまった食事は終わって帰ろうとした頃合いのことである。
「あの」
縁下力は牛島にそっと言った。
「やっぱり俺、自分の分は払います。あの場で何もしてませんでしたし、今日だって結局美沙を助けていただいたし。」
すると、それやったらと美沙も言う。
「私もせめて半分出します。無茶苦茶ご迷惑かけてもたし。」
しかし
「いい。」
牛島は静かに、しかし力強く言った。
「俺が払ったままで。もともと依頼した分の報酬という話だった、遠慮の必要はない。」
それに、と牛島はここで力に対して付け加える。
「何もしていないと言うが、お前はこちらと妹との仲介をしただろう。」
力は、あ、とごく小さく呟き、美沙はにっこり笑う。
「って言うてはるよ、兄さん。」
「う、うん。」
そうして義兄妹は
「ありがとうございます。御馳走様でした。」
揃って笑って揃って深々と礼をした。
普通ならそこまでかしこまらなくても、と相手が慌てるところだがここは天下の牛島若利である。
「ああ。」
全くもって動じることがなかった。
ただ、この時牛島は血の繋がりのない2人の笑顔が妙にそっくりに見えて不思議な心持ちになっていたともいう。