第59章 【王者の恩返し】 その6
バレーボールの専門誌に載るイケメン選手に笑いかけられ、手を振ってもらっている。
普通の女子なら勧喜ものだが、縁下美沙の場合はこれまでの経緯(けいい)によりそうはならない。
テーブルの下は牛島に阻止されてしまったので、代わりに義兄の力の後ろに隠れる。
「なんで隠れるのっ。」
及川徹はガーンとなった顔をするが美沙は見なかった振り、義兄も咎(とが)めない。
更に
「及川、どうしたあ。」
マイペースな声と共に同じく青葉城西の花巻貴大も姿を見せる。
「あれ、烏野に白鳥沢。」
松川一静もいた。
ここまで来たら当然彼を忘れてはいけない。
「またお前らか、烏野6番と半分ボケ。亅
イライラした調子で岩泉一その人が現れた。
ろくな挨拶も出来ずにいる美沙は今、前を見るのも後ろを見るのも怖いと思う。
前は言うまでもないのだが、多分後ろでは月島がまたままコさんがやらかしたと言わんばかりにこちらを見ているだろうし、他の烏野と白鳥沢の面々も多くは面白がってニヤニヤしていることは容易に想像がつく。
「てか一体どういう状況だよ」
一通り縁下兄妹の周囲を見渡して、岩泉は牛島に目を留める。
「エンノシタ美沙に仕事を依頼した。その報酬だ。」
「は、仕事。」
牛島は淡々と彼にとっての事実のみを述べるが岩泉はもちろん、及川達も一向に要領を得ない。
「なーんかよくわっかんないから詳しくは後でね。」
及川がにこやかに言った。力の後ろで美沙が詳しくはいらんとばかりに首をブンブンと横に振るが、はたして見えているのかいないのか。
とりあえず青葉城西の一行は一旦受付へと向かい、その場を去った。