第55章 【王者の恩返し】 その2
義兄と牛島に好き放題言われていることなど何も知らない美沙は嬉々として料理を選んでいた。
せっかく多岐にわたるジャンルが揃っているのだ、出来るだけ普段はあまり食べることがないものを迷惑にならない最大限でいただきたいものである。
人の邪魔にならないように用心しつつも、マス目上に区切られた皿に少しずつ取っていく。
まずはお野菜かな、あ、あそこにサラダバーがある、けどボウル持ってきてないから後で取りにいこ。お、あれローストビーフやん、やったぁ。
ピザもある、あれも長いこと食べてへんなあ、オムレツはホワイトソースが美味しそう、魚介のもあるやんあれはアクアパッツァとかいうやつかな、あのパスタはソース何やろ見たことないけど気になる、ああああ、あとあそこの八宝菜も捨てがたいやん。
そうしてとりあえず目についたものを取っていって皿のマス目が埋まったところで美沙は席に戻ることにした。
「ほなお先に。」
すれ違った義兄と牛島に声をかけると義兄はにっこり笑いながら、牛島は特に表情を変えずに頷く。
美沙はこれまた人にぶつからないようにかつ、しかし早足で席に戻るのだった。
「度々すまないが」
美沙の姿が見えなくなったタイミングで、自分も料理を取っていた牛島が力に言った。
「妹はあれほど素早かったか。」
力は苦笑するしかなかったという。
次章に続く