第54章 【王者の恩返し】 その1
「礼には及ばない。」
牛島が重々しく言ったところで、
「へぇー」
とうとうこの男が口を挟んだ。天童覚である。
「若利クン、ままコちゃんとまま兄クンとご飯食べに行くんだ、面白そうー。」
普通なら面白がる要素はなさそうなものだが、おそらくこいつはボケonボケで何か起きたら良いと思っている。
それだけで済んだらよかったのだが、天童は更に爆弾を落とした。
「ねぇねぇ若利クン、俺らも一緒に行ってもいいー。」
途端に縁下兄妹は再び固まり、烏野・白鳥沢両陣営も絶句する。
「こんのバカヤロッ。」
数秒後に声を上げたのは瀬見英太、天童の頭をベシッと叩く。
「俺"ら"って勝手にこっちも巻き込んでんじゃねぇっ。」
「何でさいーじゃん、どうせみんな来たかったんじゃないのぉ。」
「俺は別に。」
すげなく言うのは白布賢二郎で、こちらは本気で面倒なことになったと言わんばかりである。
「俺も厄介事に巻き込まれるのはごめんです。」
クールな表情のまま厄介事が起きる前提で拒否をするのは川西太一、
「とにかく、若利は美沙さんと約束してたんだから無関係の奴がついてくるのは違うだろ。」
「そうです天童さん、牛島さん達の邪魔はダメですっ。」
そもそものところを指摘する大平獅音に、五色工も賛同する。
「みんな頭かったいでやんのー。」
不服そうにする天童に山形隼人があのなぁと呆れた。
「頭が固いの柔らかいのって話じゃねーから。ほれ見ろ、烏野の方もすんごい顔でお前見てるぞ。」
実際概ねは山形の言うとおりである。
烏野の方では澤村と菅原が引きつった笑顔、東峰は気絶せんばかりに青ざめた顔、谷地・山口・日向は魂でも出すのかと思うくらい口をあんぐりあけた顔、月島はまたなんかめんどい事になったという顔、木下・成田・田中に至ってはややこしくなるから絶対来ないでくださいいやマジで頼むから、と声なき叫びを上げている顔と来ている。
清水はこれ以上縁下と美沙ちゃんを困らせるのやめてほしいというオーラを発しつつもいつものクールな顔、とマイナス感情がほとばしっている。