第54章 【王者の恩返し】 その1
慌てて西谷夕を静止する田中、こそりと縁下兄妹の方を見やるが幸い兄も妹も気がついていない。
「それより」
ここで口を挟むのは1年の月島蛍である。
「今日はままコさんがどこの学校を引き寄せるのか、が問題では。」
「ツッキー、それフラグ。」
月島の幼馴染の山口忠が呟くも
「どうせ僕が言おうが言うまいが起きるでしょ。」
当の月島は諦めたような口調だ。
「月島に賛成するのは癪(しゃく)に障(さわ)るけど、俺も思う。」
うーと唸りながら言うのはしばしば月島とぶつかる日向翔陽である。
「うーん、日向もあんまり美沙さんの事言えないと思うけど。」
1年マネージャーの谷地仁花が苦笑すると日向はショックを受けたような反応をしたが、行く先々で他校と小競り合いをしているのだから否定のしようがない。
しまいめに影山飛雄が美沙を見て言った。
「お前何でそんなに他校引き寄せるんだ。」
「本人に聞きなっ(聞くな)、そして知らんっ。」
「こら美沙、騒がない。」
「せやけど兄さん」
抑えようとする義兄に抵抗する美沙、一方で
「さー、今日はどこがくっかなぁ。」
副主将の菅原孝支が楽しそうに言う。
「よせって、スガ。」
「そんなに毎回他校が来たら美沙ちゃんが大変。」
震えるエースの東峰旭に、あまり表情を変えずに言う3年マネージャーの清水潔子、
更に主将の澤村大地がそうだぞ、と呟く。
「それに毎日毎日美沙さんがいる時に他校が寄ってくる訳じゃないしな。」
「もしそうだったらとっくに美沙ちゃん同行禁止令出してるもんな、縁下に。」
「今後次第だけどな。な、縁下。」
澤村はニッコリと力に笑いかけるが、癖の強い野郎共の頭を張っているだけあり目が笑っていない。
義妹が絡む時は主将にすら楯突いてしまう力も、これにはいつもどおり大人しく返事をする。
実際ゴリ押ししてほぼ毎日義妹を連れてきているのは事実だ。
「兄さん、」
美沙は呟いた。
「もうええ加減、私は普通に先帰った方がええんちゃうの。」
「それは却下だな。週一だけでも俺は大分譲歩したんだから。」
「譲歩してもろたしと思(おも)て折れた私が間違いやった気ぃしてきた。」
「何か言ったか。」
「な、何もない。」
結局義兄に押されてしまうのが情けない。