第54章 【王者の恩返し】 その1
その時、烏野高校1年5組パソコン部の縁下美沙はいつもどおり義兄の力とその仲間である男子排球部の面々と下校していた。
「そしたら兄さん、その後何がわかった思う。」
バリバリの関西弁―それもやや古めかしい―で少女は義兄に愚痴っている。
「どうなったんだ。」
愚痴に付き合う義兄の力は穏やかに微笑んで先を促す。
美沙は一瞬息を吸ってから勢いよく言った。
「ソフト自体のバグやってんっ。」
美沙はこの日、パソコン部で作っているプログラムで不具合対応に悩まされていたのである。
先輩部員に教えてもらいながら組んでいたのだが、何度やってもプログラムは動いてくれなかった。打ち間違い等ではなさそうで、先輩部員と一緒に悩んだ挙句調べてみたら使っているソフトの不具合によると判明した次第だ。
「そりゃ災難だったな。」
「ほんまやで、まさかそんなんとは思わんもん。それも窓のOS版限定のバグっ。」
「また難儀な。解消されそうなのか。」
「先輩と調べてみたらもう何年も放置されとるみたい。」
「ひどい話だな。」
「しゃあないから調べて出てきたやり方でバグ回避する事になった。」
「それで動いたのか。」
「うん。めっちゃ回りくどいことせなあかんかったけど。」
「そりゃ良かった。お疲れ様。」
「ちゅうか兄さん、窓印とかロボット印のOSってようソフトのバグに突き当たるよーな」
「さあな。」
「さりとて林檎印も」
「うん、それ以上はエンジニア界隈を敵に回しかねないからやめような。」
わりと言いたい放題の義妹とそれを柔らかく止める義兄の様子を男子排球部の連中は、それこそ微笑んだり苦笑したり阿呆くさそうにしながら見守っている。
「あれもすっかり見慣れちまったなぁ。」
力と同じ2年仲間の木下久志がボショリと呟く。
「本当なら美沙さんが今の時間に俺らといるのも変な話なんだけどな、」
苦笑して言うのは力とクラスが同じの成田一仁である。
「縁下が謎のシスコン発揮するから。」
「違いねえ、」
賛成するのは田中龍之介だ。
「奴は妹の事になると急に理性がログアウトしやがる。」
「美沙も何気にブラコンだしな。」
「よせノヤっさん、それは縁下妹の耳に入ったらめんどくせえ。」