第53章 【Sorry for Dali その6】
仲間に妙な方向で心配されていることなぞ知らず、縁下力は目的の駅前に到着していた。
連絡を受けた時刻からして茂庭と義妹が改札から出てくる頃か、あるいはもう改札を出て待っているかもしれない。
日曜で行き交う者が多い中、あたりを見回していると自分に向かって細っこい腕を振っている少女と付き添っている少年を見つける。
「兄さん。」
愛する義妹の声で、力はすぐにすっ飛んでいった。
「お待たせ。茂庭さん、こんばんは。」
「こんばんは。毎回お疲れ様だな。」
「まぁ俺の仕事みたいなもんなので。」
「いらん言うてるのにゴリ押しして迎えにくるのははたして仕事なんやろか。」
「何か言ったかい。」
「い、いやなんも。」
笑顔で義妹を威圧する力とたじたじとなる美沙に茂庭は苦笑する。
「ホント大変だ。」
「私、それともうちの兄さん。」
「それは想像に任せるよ、美沙さん。」
「あ、茂庭さんが珍しくずっこい。」
頬をふくらませる義妹を力はさりげなく引き寄せた。
「それはともかくとしてありがとうございます、茂庭さん。出かけてる間に妹が何かしでかしたりはありませんでしたか。」
「いや、それはなかったよ。」
茂庭はおそらく美沙が面倒な事になるのを見越して気を遣ったのだろう。
しかし、力は何の気なしに使われた区別の助詞を聞き逃さない。
「それ"は"という事は、他に何か起きたとか。」
「え、あ、いや」
動揺した茂庭を誰が責められようか。
実際この時美沙もこれは茂庭さん悪(わる)ない、と思っていたという。
「詳しくは美沙から聞きます。」
ピクリと肩を震わせる義妹をよそに微笑んで言う力、というかお前は他校の元主将を威圧してどうする。